episode 08:

関本美喜の場合

「祐介、最近やばいんだよね」

でた真奈美のカレシ自慢。私はヨーグルトサンデーの底に沈んだマンゴーをひっくり返しながら適当に相槌を打った。ファミレスには私たちのほかに客はいなかった。

「なんか悪魔ムカツクとか言ってて」
「え?悪魔?」
「悪魔知らない?悪魔」
「ニュースになってるやつ?」
「そう。最近変な催眠術みたいなのが流行ってて結構マジでやばいって」
「知ってるやばいよね」
「その悪魔ムカツクって言っててさ」
「なんでムカツクの?」
「催眠術の奴って人を襲うんだって。祐介の友達が殺されたらしくてさ」
「え?殺されたの?」
「首ちぎられたって言ってた」
「え、なにそれきもい。でもそれニュースになってる?」

真奈美の話は何だか要領を得なかった。いつものことだけど。でも国か政府かが報道に規制をかけているって言っていた。そんなことができるのかどうかよくわからないけど、そういう映像を放送すると真似をする馬鹿がいるからだって言っていた。真奈美のカレシの祐介は最近できたチームに入ったらしい。悪魔を狩るために集まった男たちらしい。携帯の写真を見せてもらった。なんだかよく大きなビルのまわりを街宣車に乗ってぐるぐる怒鳴りながら回る男の人たちに似ていると思った。みんな同じカーキ色の服を着て長い棒を持っていた。

「目がいっちゃってるんだよね」
「怖いね。ちょっと」
「祐介が言うんだけどさ」

真奈美が声を急に小さくした。

「悪魔になってからだと殺すの大変なんだって」
「悪魔を殺してるの?」
「そのためのチームなんだよ」
「最近、悪魔になりそうな奴を先に狩るって言ってた」

え?何それ?私はなんだかものすごく嫌な気持ちになった。

「だから、悪魔になりそうな奴は先に」
「人殺しじゃんそれ」
「違うよ悪魔だよ。生まれる前だけど」
「悪魔になる前はただの人間でしょ」
「でもそうしないとまじでやばいんだって」

世界は角を曲がっていた。チームはまるで市民軍隊のようで、いつまでも正式な発表をしない政府やマスコミが信頼を失っていくのに比例して圧倒的な支持をえていった。事実、増え続ける悪魔の出現はもうどうしようもなくなっていた。やがて政府の一部はチームの存在を黙認すると公言した。それからチームは悪魔の増殖に匹敵する早さで拡大していった。そして悪魔狩りは公然と行われるようになった。

社会に不満を持つ者
かつて苛めにあっていた者
嫉妬が顔に出ている者
他人の悪口を呟いた者
粘着質なメールを送った者

心の弱さをもつものはすべて悪魔の予備軍と見なされてチームによる調査対象にされた。調査はリンチだった。でも誰もそれをおかしいとは思わなかった。

それからひと月もたたずに真奈美のカレシの祐介が死んだ。調査対象になってそして死んだらしい。具体的にはわからない。真奈美はその日から外にでなくなった。そのままだと調査対象になりかねないから、と真奈美のお母さんから連絡があって会いに行ったけれどぜんぜんやる気がでないとベットからでてこなかった。

「青柳ぶっ殺す」

真奈美は最後にそう言った。そして、その翌日真奈美も調査対象になった。私は青柳を調べることにした。青柳の情報はネットにたくさん載っていた。

青柳優斗。大崎にある電気メーカーに勤めていた頃、祐天寺で悪魔の襲撃にあう。奇跡的に一命をとりとめたあと悪魔狩りの研究に冒頭。チームの創立メンバーのひとり。悪魔予備軍の排除を決めたのは青柳の意見によるところが大きい。青柳は一貫して悪魔をこの世界から排除するためにはある程度の犠牲はやむをえないと主張。当初その意見は危険すぎると反対にあったが、創立メンバーのひとりが悪魔になった事件をきっかけに、その主張はそのままチームの方針となった。

写真を見ると背の高い色白の男だった。たいていの写真が笑っていた。悪魔狩りを率先して行うようなヒステリックな意見の持ち主には見えなかった。でもそれが私には逆に怖かった。

NURO DEVILMAN 作:高崎卓馬 デビルマン 原作:永井豪

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